フンザの開発現場にFJが潜入取材
株式会社フンザ 取締役 CTO 酒徳 千尋 氏
ライブやスポーツ、各種イベントなど、さまざまなチケットを Webサイトやモバイルアプリを介して売り買いできる C2Cサービスの「チケットキャンプ」が人気を集めている。
「せっかくサッカー観戦のチケットを買ったのに仕事の都合で行けなくなった」「一緒に行く予定だった友達が体調不良になってしまった」。こんな事情からチケットが不要になったり、余ったりするのはよくあること。その一方で、「抽選に漏れてしまったけれど、どうしてもライブに行きたい」とチケットを求めている人がいる。こうした個人間の需要と供給をチケットキャンプが“つなぐ”のである。2013年4月のリリース当初から右肩上がりの成長を続け、2015年11月現在では月間500万ユーザーが利用する日本最大級のチケット売買サービスとなった。
このチケットキャンプの開発・運営を手がけているのがフンザである。3名の有志によるスタートアップの開発プロジェクトとして2012年12月に創業(正式登記は2013年4月)。2015年4月、エクジットの形として株式会社ミクシィへのバイアウトを選択したが、創業者3名を含めたほぼすべての社員が現体制に残り、チャレンジを続けている。
今回は、フンザの創業メンバーの一人であり、さまざまなサービス開発を牽引している取締役 CTO の酒徳千尋氏を訪ね、エンジニア主導の会社づくりや仕事に対する思い、求める人材像などを語っていただいた。
「ウノウ」という会社を覚えているだろうか。インターネット界のカリスマ山田進太郎氏が代表を務め、「映画生活」や「フォト蔵」などのさまざまなWebコンテンツを生み出してきた伝説的スタートアップ企業である。なかでもソーシャルゲームの「まちつく!」は同社最大のヒット作であり、米 Zynga 社に買収されるきっかけとなった。世界最大手のソーシャルゲーム会社が日本の小さなスタートアップ企業に目をつけたというこの事実は、歴史的な出来事として業界に衝撃を与えた。
酒徳氏は2007年4月から2012年12月まで、このウノウおよび後継会社の Zynga Japan にエンジニアとして在籍(一時期、株式会社gumi へ転籍)。それ以前は派遣エンジニアとしてドワンゴでガラケーアプリの管理ツールの開発に携わっていた酒徳氏だったが、個人的な興味から自発的に参加していたプログラミング言語 Python のユーザー会での活動が、ウノウ幹部の目に留まったのである。
「その頃、ウノウでは gumi の創業者からツイッターに似たマイクロブログのサービスを立ち上げたいと相談を受けていて、その開発担当として誘われたのです」
こうして転職したウノウおよび Zynga Japan での6年間にわたる活動が、自らの基礎を築いたと酒徳氏は振り返る。
「ウノウの責任者から『あなたの得意な言語、好きなやり方で開発してかまわない』と許可されたおかげで、前半の3年間では Python や開発フレームワーク Django を自分なりに極めることができました。後半の3年間は新生 Zynga Japan で『まちつく!』の開発を担当することになったのですが、世間でのヒットと共に急速に拡大していく開発チームの総力を活かすために自分がどのように振る舞えばよいのか、リーダーシップやプロジェクトマネジメントを学ぶことができました」
ところが、米 Zynga 社の世界的なリストラの動きの中で、Zynga Japan も2012年10月に閉鎖されることになってしまった。もっとも、酒徳氏にショックはなかった。「ソーシャルゲーム開発はもう十分にやった。これからはまったく違うサービスを始めたい」。そんな思いを共通に持つ元 Zynga Japan の3人が自然と集まり、自分たちでスタートアップを起こすことになった。こうして誕生したのがフンザというわけだ。
ちなみに、フンザという社名は酒徳氏が学生時代に初めての海外旅行で訪れたパキスタン北部の町の名前に由来するという。宮崎駿監督のアニメ映画「風の谷のナウシカ」に出てくる「風の谷」のモデルになったとも言われる美しき秘境だ。
「社名は夢のある地名から名づけようと最初から決めていました。“アマゾン”みたいな巨大企業に発展させようという皆の思いが込められています」
当初はほとんど資金もない状況だったが、現在の代表取締役である笹森良氏の自宅に集まり、皆でさまざまなビジネスのアイデアを出し合った。その中から一本に絞り込んだのが、 C2C のチケット売買サービスだったのである。
「チケット売買の既存サービスもベンチマークした結果、『必ず市場性はある』と確信し、その後は全員でひたすらサービス開発に没頭しました」
酒徳氏がサービス開発の基盤に選んだのは、もちろん Python と Django である。
「一番長く使っている言語や開発環境として愛着があるのも理由のひとつですが、私が何より Python や Django を気に入っているのは、無駄のないコードを記述できることです。十分に検証されたライブラリも充実しており、信頼性の高いサービスを属人的な要素に依存することなく実現するうえで、最適な方法と判断しました」
夢を単なる夢で終わらせることなく、実現に向けて着実に歩んでいるところがフンザのすごさだ。先述したようにチケットキャンプを、わずか2年半のうちに月間500万ユーザーが利用する日本最大級のチケット売買サービスに発展させたのである。
なぜ、これが可能だったのか。CTO の役職に就いた酒徳氏がサービス開発において一貫してこだわっているのが、「労働集約型の仕事は絶対にさせない」ことである。一般的にソフトウェア開発は規模が拡大していくにつれ、エンジニアリング的な手法を導入せざるを得なくなる。リーダーから指示された設計仕様どおりに、配下のメンバーがコーディングを行うというスタイルだ。確かに効率は上がるかもしれないが、個々のメンバーにとっては自分がいま何を作っているのかさえわからなくなる。
酒徳氏はこのやり方を真っ向から否定し、「一人ひとりに責任を持たせ、考えさせ、ボトムアップで意見を吸い上げる」というスタイルを徹底している。それはまさに酒徳氏自身が、ウノウや Zynga Japan 時代に学んできた開発の“あるべき姿”である。
「我々にとって最も大切なのは、サービスを安定的かつ快適に動かしたり、サイトのさらなる発展や成長につながる可能性を見出したりすることであり、そこに全力を挙げなければなりません。自分にはもっとうまい方法がある、もっと省エネのやり方で課題を解決できるといったアイデアが一人ひとりから出てこないと、多くのユーザーから支持されるサービスを実現することはできません」
例えば、オークションサイトのような複雑なやりとりの仕組みをあえて採用せず、言い値で即座にチケットを購入できる機能に絞り込んだシンプルなサービス提供に徹したことが、多くのユーザーから好評を獲得している。公演データベースを整備しているため、チケットを売るのも探すのも簡単だ。
一方でユーザーの安全性を確保するため、買い手にチケットが届くまで支払われた代金を事務局で預かるエスクロー決済を採用しており、取引相手に直接チケット代金を支払う必要もない。これによって万が一、チケットが届かないなどのトラブルが発生した場合でも、チケット代金を全額返金する対応を取ることができる。
エンジニアのプライドを尊重し、一人ひとりのポテンシャル(潜在能力)とエンパワーメント(自律的な行動力)を発揮させる体制を築いてきたからこそ、こうしたユーザー目線に立ったサービスを、短期間のうちに次々と展開することができたと言える。ただ、チケット売買サービスの分野で追う立場から追われる立場となったフンザにとって、これまでの延長線上で成長を追い続けるのは困難となる。「このままでは停滞しかねない」というのが、酒徳氏が抱えている危機感だ。そんな現状を打破していくうえで必要なのは、やはり新しい人材に他ならない。
「いまのフンザに不足している統計解析やデータマイニングなどの高度なスキルを備えている人、既存の価値観との闘いもいとわないアグレッシブな情熱を持っている人などが、私たちの仲間に加わってくれることを期待しています」
これまで世の中になかったサービスの創造も視野に入れ、フンザは新たな人材とともに、さらに大きなチャレンジに臨んでいく。
株式会社フンザの担当コンサルタントに相談しませんか?
転職業界には「エージェント」という、プロの転職コンサルタントがいます。 Forkwell Jobs のエージェントなら、実際に転職された方からの情報など、外には出てこないここだけの情報をお伝えできます。
ゲーム業界からの転身 -「IT×教育」に掛けたCTOの決意
ユーザー数110万人を超え、App Storeの代表作(Essentials)アプリにも選ばれ、2015年5月には1.85億円の資金調達を行ったスタディプラス株式会社。その代表取締役である廣瀬高志氏とCTOの齊藤秀治氏に、参画の背景からStudyplusのビジョン、求めるエンジニア像について話を聞いた。(すべて読む)
2015-06-18 公開
取材・執筆:深谷 歩 [株式会社 深谷歩事務所]
爆速でリリースし続けるGunosy流「マイクロサービス指向の開発」はどのように生まれたのか
国内だけでユーザー数900万超となった情報キュレーションアプリ「グノシー」を運営し、2015年4月には東証マザーズ市場に上場も果たした株式会社Gunosy。プロダクト開発の基礎となる開発ポリシーを、執行役員 開発本部 松本勇気氏に聞いた。...(すべて読む)
2015-06-08 公開
取材・執筆:深谷 歩 [株式会社 深谷歩事務所]
ココナラ中核のエンジニアが語る「エンジニアがサービスを作る会社」で働く面白みとは?
個人が持っているスキルや経験を売り買いできる「ココナラ」。今回は、CTOの恵比澤 賢氏とエンジニアの島田 喜裕氏に同社の開発スタイルやポリシーについて話をうかがった。...(すべて読む)
2015-06-01 公開
取材・執筆:深谷 歩 [株式会社 深谷歩事務所]